大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成9年(ワ)23624号 判決 1998年3月19日

主文

一  被告は、原告横山弘に対し、金五〇〇万円及びこれに対する平成九年一一月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告日本パルプ販売有限会社に対し、金六五〇万円及びこれに対する平成九年一一月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は仮に執行できる。

理由

一  請求原因1、2及び4の事実、原告らが、被告に対し、平成九年一〇月二一日到達の内容証明郵便で預託金を同月末日までに返還するよう求めたことは、いずれも当事者間に争いがなく、《証拠略》によると、本件ゴルフ倶楽部の会則七条一項は、「預り保証金は、本倶楽部が正式開場した後、満一〇年間据え置き、その後請求があり次第、理事会の承認を得て返還する。但し天災地変その他、不可抗力の事由が発生した場合は、理事会の決議により据置期間を延長することができる。」と規定していることが認められる。

二  そこで、抗弁について判断する。

1  被告は、バブル崩壊とその後の平成不況下でのゴルフ業界の不振は会則七条一項但書が規定する「不可抗力の事由」に該当すると主張する。

しかしながら、右但書にいう「不可抗力の事由」とは、その前に例示する「天災地変」に類する避けることのできないような事変を意味するものと解するのが相当であって、バブル崩壊のような経済事情の変動等によるゴルフ業界の不振などの事態は含まれないものというべきである。

そうすると、バブル崩壊とその後の平成不況下でのゴルフ業界の不振は会則七条一項の但書が規定する「不可抗力の事由」には該当しないから、これを前提にした本件ゴルフ倶楽部の理事会による原告らを含む全会員の預託金の据置期間を本来の据置期間満了の日である平成九年一〇月一五日の翌日から一〇年間延長する旨の決議は、原告ら会員に関する関係で無効であり、原告らを拘束するものとはいえないから、被告の据置期間の延長の抗弁は理由がない。

2  次に、被告は、右理事会の決議による据置期間の延長は事情の変更に基づき本件会員契約の契約内容を改定したものであるから有効であると主張する。

しかしながら、事情変更の原則が適用されるためには、<1>契約成立時に基礎として存在した事情に変更があったこと、<2>事情の変更が契約締結当時当事者に予見し得なかったものであること、<3>基礎事情の変更が当事者の責めに帰すべからざる事由によること、<4>事情変更の結果、当初の契約内容を維持することが信義則上著しく不当と認められることが必要であるところ、据置期間が経過すれば、会員が預託金の返還を求めることは当然の権利行使であって、ゴルフ会員契約の当初から当然予想される事態であるから、少なくとも当初の契約内容を維持すること、すなわち満一〇年間の据置期間満了後の預託金返還請求を認めることが信義則上著しく不当であるとまでは認めることはできない。

したがって、事情変更を理由に契約内容の改定による据置期間の延長をいう被告の抗弁は理由がない。

三  以上によれば、原告らの本訴請求はいずれも理由がある。

(裁判官 山崎 勉)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例